「蝶々殺人事件(作品集)」(横溝正史)

どれをとっても一流のエンターテインメントです。

「蝶々殺人事件(作品集)」(横溝正史)
 角川文庫

日本屈指の
オペラ歌手・原さくらが、
東京公演を終え、
大阪公演を控えた僅かな間に
行方をくらました。いつもの
気まぐれだろうと考えていた
団員たちの前に届けられた
コントラバス・ケース。
その中から現れたのは
彼女の死体だった…。
「蝶々殺人事件」

本書もまた、
「探偵・由利麟太郎」のTV化により
復刊された一冊です。今年
(2020年)3月に出版されたときは、
「なぜ今頃?」という思いを
抱きましたが、
そういう事情があったのでした。

本書の表題作となっている
「蝶々殺人事件」は、
第4・5話の「マーダー・バタフライ」の
原作となっています。
もちろん横溝の代表作であり、
戦後、本格探偵小説を目指した横溝が
渾身の力で書き上げた一篇です。
しかし、収録されている
他の2篇も抜群の面白さです。

俊介の友人で、
類い希なる美貌の男・瓜生が
何者かに刺殺される。
瓜生は最近、
妖艶な女性・百合枝と
つきあい始めて
いたことがわかる。
三津木俊介は百合枝に接近し、
事件の真相を暴こうとする。
ところが俊介もまた
彼女の魅力に酔い…。
「蜘蛛と百合」

「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」の2篇は、
ともに昭和8年の作品であり、
印象は「蝶々殺人事件」とは
大きく異なります。
戦前の作品特有の、
強烈なキャラクターの登場、
ジュヴナイルと見まごうほどの
破天荒な展開、そして
若さあふれる三津木俊介の活躍と
超人的な由利麟太郎の推理。
どれをとっても
一流のエンターテインメントです。

大火災から救出してくれた
命の恩人・大利根の顔を見て、
弓子は驚く。五年前、
弓子の前夫が殺害された罪で
獄死した薔薇郎と
よく似た老人だったからだ。
後日、弓子は
現在の夫・磯貝半三郎とともに
大利根邸に招待されるが、
そこには…。
「薔薇と鬱金香」

さて、
「探偵・由利麟太郎」も終了しましたが、
視聴率はどうだったのでしょう
(私は見ていないのですが)。
好評であれば第2シーズン制作も
可能性を帯びてきます。
さらなる復刊が
それによってなされればと思います。
「仮面劇場」「双仮面」「幻の女」など、
まだまだ由利・三津木シリーズ
充実しています。
今後の復刊に期待したいと思います。

※なお、
 本書も私は3冊所有しています。
 杉本一文画伯の表紙は最高です。

(2020.7.19)

Free-PhotosによるPixabayからの画像

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